5年ほど前、30代の男性が顎関節の症状(口が開きにくい、音がするなど)と不正咬合(バイトが深く、叢生)を主訴に来院された。特に顎関節の症状を訴えていたので、
最初はスプリントで症状の様子をうかがい出来るだけ矯正治療を避けようとしていた。
私は初診での説明の時、当院で矯正治療の結果、顎関節症の症状が良くなった人は多くいる、しかし「顎関節の治療のため矯正治療って症状を改善できるかどうか分からない」と言う。
このケースでは、スプリントで顎関節の症状が改善したわけではなかったが、不正咬合の治療のため矯正装置を付けた。
できるだけ簡単に治療ができるように、最初、上顎のみの片顎抜歯で行ったが、下顎が拡大だけでは叢生の改善に限界があり、結局、下顎も抜歯して、当院では数少ない治療期間3年となってしまった。
それから保定1年半、顎関節のこともお互いに忘れていたが、カルテをみて、初診で訴えていた「顎関節の症状は」?とたずねたら、「そういえば顎関節の音もしないし、違和感もない、そんなこと忘れていた」とのことだった。
知らぬ間に症状が消えて、昔、苦しんでいたことさえ忘れてしまう。
医療はこれで良いのだと思う。
結果、矯正治療による咬合の改善は、顎関節症の治療に役立っていたと言えるだろう。
しかし、まだ矯正治療で顎関節症が治るというつもりはない。