2007年11月初診、8歳7カ月の女の子だった。
症例の特徴は厳しい反対咬合、下顎の右側偏位、上顎スペース不足、第一大臼歯の近心傾斜などと難しい要素がいっぱいだった。
最初に診たとき、このケースは必ず将来、成長により顎変形症になるからと思ったことを覚えている。
しかし、それでも第一大臼歯の近心傾斜を改善し、第二小臼歯を出すことだけはさせておこうとスクリュープレートをつけた。
さらにリンガルアーチも入れて実現した。
そして永久歯への交換と成長を観察していた。
そうしたら今度は右上犬歯の出る方向が悪い、隣の側切歯の歯根を吸収しそうだ。
急いで開窓して出しだ。
そして永久歯列を迎え、成長もかなり終わりになってきた。
この状態で検査すると、最初に顎変形症に必ずなると思っていた考えが変わってきた。
なんとか矯正治療だけでいけそうな感じになってきた。しかも抜歯もしないで何とかなりそうだ。
これらは長年の経験からの勘で分析結果からの診断では無い。
それでも、その勘に基づきマルチブラケットでの治療を始めた。
その治療の間、患者さんは非常に強力がよかった。特にめんどくさいゴムかけをよくやってくれた。
そうすると、その次のときには良い結果が出ている、そして喜ぶ。
ゴムかけを中止すると、また問題の咬合になってくる。
そんなことを何度も繰り返して治療期間はダラダラ伸びてきた。
先月大体良い状態かなとみてマルチブラケットを撤去した。
そして保定装置を入れて1ヵ月、今日は咬合みた。
よく安定している、戻っていない。
それを確認して今までに撮った数多くの写真を見ながら母親と治療を振り返った。
患者さんは中学3年生、体もずいぶん大きくなりもう成長の心配もないだろう。
右側に偏位していた顎のゆがみも感じられない。
患者さん本人は無表情だったが、私と母親で写真を見ながら喜び合った。
顎変形症と予測していたものが非抜歯で治療が終了し顎の歪みも治った。
このことからの成長は予測がつかない、治療は患者さんの協力により大きく左右されるということをつくづく感じた。